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【書評】電車が停まるとトイレに行きたくなる『運転、見合わせ中』畑野智美

本の感想 本の感想

飛来物? によって電車が運転を見合わせた?
トイレを我慢しているデザイナー、お泊りデートのせいで電車遅延に遭遇した人。彼らの人生はこの運転見合わせでどう変わるのか。


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著者:「畑野智美」情報

新聞社、映画館、出版社などでアルバイトをしながら小説家を目指す
2010年、「国道沿いのファミレス」で第23回小説すばる新人賞受賞。
2011年、同作で小説家デビュー。2013年、『海の見える街』で第34回吉川英治文学新人賞候補。2014年、『南部芸能事務所』で第35回吉川英治文学新人賞候補。

「運転、見合わせ中」抜粋

朝のラッシュ時に電車が停止!
そのとき、大学生、フリーター、デザイナー、OL、引きこもり、駅員は?
突然のアクシデントに見舞われた若者6人のドラマを描く私鉄沿線・恋愛青春小説!

※アマゾンの紹介分から引用していますが、恋愛青春小説ではないと思うので注意してください。
※表紙が内容を表しているとは限らないが、もしこの本をジャケット買いするのではあれば少し注意した方がいいかもしれません。

人生の岐路はどこにでもある

朝、学校に向かっている時、バイトへ向かっている時、仕事に向かっている時、あるいは、何かのっぴきならない用事がある時――、
結構な確率で電車遅延に遭遇することがある。

「あー、会社に電話しないとイケない」
「混むから嫌だなあ」
――と色々なことを考えながら携帯で最新情報をチェックする。
しかし電車の公式ツイッターを見たところで、状況は分かるが、本当に知りたい復旧見込み時間がなかなか分からずにイライラすることも多々ある。
乗客の顔を見渡しても誰もがいらいらしているように思われる。
その中には「学校にゆっくり行けるぜ」と楽観的に考えるものもいれば、あるいはもしかすると、その5分の遅れで人生がまるっきり変わってしまう人もいるかもしれない。

この本は電車が止まったことから物語が始まる。
原因は「飛来物」「線路内への立ち入り」
「線路内内に立ち入った人が消えた!?」と確かではないが、どうやら尋常じゃないほど遅れているらしい。
そしてそこにいあわせた各章の主人公――

  • 大学へ向かっている、大学生らしい悩みを抱える大学生
  • バイトへ向かっている、中途半端な気持ちで仕事に取り組むフリーター
  • 転職先に向かっている、トイレを我慢しているデザイナー
  • お泊りデートでいつもと違う電車に乗った、結婚願望の強いOL
  • 強い決意を胸に駅を訪れた、引きこもり
  • 電車遅延の処理に追われる、駅員

5人による群像劇で構成されている。

この5人に共通項はこの遅延に遭遇することで人生が変わるということである。
それぞれ小さな変化から大きな変化まで様々だが――。

  1. 大学生は遅延に伴い憧れの上原さんと歩いて大学を目指すことに――
  2. フリーターは電車が遅延したことで月3回目のバイトに遅刻することが決定する。バイト先の先輩から逃げたくて、反対車両に乗り込んでしまう――
  3. デザイナーは今の職場に満足できずに転職先に向かっている。しかし電車が遅延したことでそのアポイントメントに間に合わないことが決定する。さらにトイレも我慢できそうになく――
  4. OLは前日のお泊りデートのせいで遅延電車に巻き込まれることに。そこで会社の先輩と遭遇して――
  5. 引きこもりは3年ぶりの外にでた、行く先は駅のホーム。強い決意とともにホームに立った――
  6. 駅員の不注意で、人が線路に落ちた。しかもどうして落ちた人が線路を走っていってしまって――

それぞれ遅延が原因で、いつもと少し違うできごとに遭遇する。そうしてそれが彼らに何をもたらすのか。

「あの後に、東川が駅員に向いていないって落ち込んだように、電車が遅れことが影響して、人生が何か変わった人だっていると思うぞ」

この物語を読むと人生は選択の連続だということを改めて思い知ることになる。

  • もう少し早く家を出ていば……
  • 昨日早く寝ていれば……
  • 交通状況を見てから家を出れば……

言い出したらきりがない。
――言い出したらきりがないほど選択する場面はたくさんあるのである。

なんだかそんな簡単で単純なことにこの本を読んでハッとした。

飛来物というレトリック

「運転、見合わせ中」というタイトル。
そうして、

  • 大学生は、駅の前
  • フリーターは、ホームにいた
  • デザイナーは、電車の中
  • OLは、電車の中
  • 引きこもりは、線路の上
  • 駅員は、線路の上

――、と言う見出しを読んで、「ああ、きっと引きこもりが自殺を試みたんだろうなあ」と察して読み始めるのだが、1ページ目で

『飛来物により運転を見合わせています』
……飛来物ってなんだよ?

と想像の斜め上をいく物語の方向が示される。
ここで、「おおっ」とひき込まれ一気に最後まで読み切る決意をするのである。

こういう読者を楽しませようという仕組みはさすがだなあと思う。
はたしてなぜ電車は停まったのかという大きな1本の物語。
その間に多数展開される物語。
常に飽きさせない物語は読んでいて非常に楽しかった。

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