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まるでわからない実験的な小説なのに、さらっと最後まで読める安部公房 著『箱男』の感想は?

本の感想
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マスク文化と箱男の共通項

通勤電車、スクランブル交差点で左右を見渡してみると、多くのひとがマスクで顔を隠している。
外国人はその光景にひどく驚くらしい。
確かにその写真を見ると1種の宗教的な香りさえしてくる。

しかしどうして人々はマスクで顔を隠すのか。
それは簡単で風邪予防のためだろう。
あるいは風邪予防のためだった、かもしれない。

例に漏れずマスク宗教に加入しているわたしも入教理由は風邪予防のためだった。

通勤電車は満員電車でとにかく人がみっしりと乗り込んでいるので、風邪が移る可能性が高いと思いつけ始めたマスクだが、気がつくと手放せなくなった。

マスクによって顔を半分以上隠せているということが安心感をもたらすようになったのだ。
その感覚を味わってしまうと最後、もうマスクを手放すことはできなくなった。

そしてそれは「箱男」も同じかもしれない。

箱男に惹かれるひとたち

箱男とはダンボールを腰までかぶり、街を歩いている人のことを言う。ダンボールの前にはのぞき窓が開き、箱男からは外の世界が見えるが、人々は箱の中を見ることはできない。

そんな箱男たちが町に発生するようになった。

箱男になる理由は様々で……、しかし誰がどうして好き好んで箱の中で生活するんだと思う人もいるかもしれない。

その人たちに向け語り手は忠告する

一度でも、匿名の市民だけのための、匿名の都市 ― 扉という扉が、誰のためにもへだてなく開かれていて、他人どうしだろうと、とくに身構える必要はなく、逆立ちして歩こうと、道端で眠り込もうと、咎められず、人々を呼び止めるのに、特別な許可はいらず、歌自慢なら、いくら勝手に歌いかけようと自由だし、それが済めば、いつでも好きな時に、無名の人ごみにまぎれ込むことが出来る、そんな街 ― のことを、一度でもいいから思い描き、夢見たことのある者だったら、他人事ではない、つねにAと同じ危険にさらされているはずなのだ。

そしてこの忠告を受け取った人は、はっとするだろう。
自分が上記のような世界を思い描いたことに思い当たり。

それを本能的に感じているせいか、箱男は「全国各地にはかなりの数」いるらしいのだが、「そのくせどこかで箱男が話題にされたという話は、まだ聞いたこともない」という。

人々は箱男がいかに魅力的で、潜在的にその立ち位置を欲しているということをわかっているのだろう。
そのためその考えに飲まれないように、あえて近づかないようにしているのである。

主人公はそんな箱男であるが、彼のもとに箱を買いたいという女性が現れた。同時に箱男そっくりの贋箱男も現れ、物語は渾沌としてくる。

箱男という匿名性のせいで、誰が語り手で、誰が主人公で……、そもそも贋箱男が贋であると言い切ることすらできない。

そんな物語は渾沌としたまま終演を迎えることになる。

いま、人々はストレス社会と闘っている。
かつて、安部公房が書いていた時代は外で人の目だけを気にすればよかった。

しかし今はいつどこで誰に撮られているかわからない。その画像がSNSで拡散される可能性すらある。

さらに自らSNSのストレス社会に飛び込み出られなくなる者もいる。

そんな世界だからこそ、
もしかしたら、ある日、
箱男が町に出現するかもしれないし、

もし、

一度でも、匿名の市民だけのための、匿名の都市 ― 扉という扉が、誰のためにもへだてなく開かれていて、他人どうしだろうと、とくに身構える必要はなく、逆立ちして歩こうと、道端で眠り込もうと、咎められず、人々を呼び止めるのに、特別な許可はいらず、歌自慢なら、いくら勝手に歌いかけようと自由だし、それが済めば、いつでも好きな時に、無名の人ごみにまぎれ込むことが出来る、そんな街 ― のことを、一度でもいいから思い描き、夢見たことのある者だったら

あなたは決して箱男に近づいてはいけない。
箱男、それはひどく魅力的なことにも思えるが……。

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