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【書評】犯罪小説or青春小説『陽の子雨の子』豊島ミホ

本の感想 本の感想

思春期にこんな体験をしたら、その後の人生はぶっ壊れるだろうなあ。
と、豊島ミホさんの「陽の子雨の子」を読んで思いました。

豊島ミホさんはこれが2冊目で1冊目は「THE 青春」といった「檸檬のころ」を読んだんですよね。
だから「陽の子雨の子」は予想外でした。想像していた斜め上を裕に越えていきました。

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こんな体験とはいったいぜんたい、なんなんだい?

まずは簡単にあらすじを

14歳の夕陽は学校でいじめられてもいなければ、仲の良い親友もある。それでいて家もいくらか裕福で、私立の中等部に通っていて、何の不幸もない。しかし彼には灰色の点々というドコか観念的なモノを恐れていた。
そんなある日の放課後、夕陽は学級日誌を届けに行った家庭科室で雪枝と出会った。担任の同級生であった雪枝はどこか幼く見える。その雪枝は夕陽が書いた灰色のモノの恐怖心(実際は消したのだが、消しゴムでの消え残りがあったらしい)を読んだ、と夕陽に告げる。そうして彼女は「夕陽くん、遊んでよ」とメアドを交換する。

雪枝は祖母から譲り受けた家で、同じく譲り受けた土地を用いた家賃収入で暮らしていた。しかしそこには聡という男も一緒に住んでいる。彼は高校生の時に家出をしてきて、ここに住みついたのだった。当然、捜索願も出されているので、雪枝は犯罪者というコトになる。しかし聡は雪枝に隷属している。彼は雪枝の言うことであれば逆らえないのであった。

そんなコトとは露知らず、雪枝の家を訪れた夕陽は2人の関係性を知ってしまう。
雪枝はなぜ、聡はなぜ、こんな関係になってしまったのか。2人の絶妙なバランスの中に、夕陽が入ることで、どのような展開になるのか。悩める少年、少女が繰り広げるひと夏の青春物語。

雪枝が出すちょっかいとは?

これがもう容赦ないんですよね。
夕陽が初めて家に来た時は、聡をガムテープで身動きできないようにして、押入れに隠し、夕陽を驚かしたり。
今度は逆に夕陽に隠れてもらって、聡と性行為をしたりと、もうほとんど意味不明なんですよね。

こんな体験を14歳の時にしたら確実に壊れますよね、人生が。

でも夕陽はその世界に怯えはするものの、近づいていく。
「安全な世界に僕は居る。でも、その外に広がるものを覗いてみたいことだってあるじゃないか」
怖いもの見たさなんですかね。
それは「何の不幸もない」ならではの感情なのかもしれません。

雪枝に共感できる所もありました。

立派な犯罪をしている雪枝ですが、その雪枝に共感できる部分もありました。

それは、

「普通に終わりたくなかったの」

という雪枝のひと言。

雪枝は密かに短歌を書いているんですよね。
でもそれはあくまでも自分の中だけで。

それをコンテストとかに出すと計れるちゃいますもんね、自分の実力が。
特に彼女は過去に辛い思いをした分だけで、それを特別に変えたいという気持ちが強かった。

で、その思いが今の雪枝がやっている行為に繋がってくるんですけれど、
それはネタバレになるので――。

終わり良ければすべてよし?

あらすじ書くとなかなかやばい物語ですよね。
これを本当に青春物語と言って良いものか……。
どちらかというと犯罪小説にじゃないのかしらん、と読み進めていきました。

でも終わりまで行くと、なるほど青春小説だったのかもしれないと思えるんですよね。
最後のまとまり方がすごい爽やかなんですよ。

説明するには難しいので、印象に残ったフレーズを書きますね。
あらすじに書いた犯罪小説からはまったく違う、爽やかな感じですので、心してください。
ついでに軽いネタバレにもなりかねないので、心してください(笑)

  • 玄関から夕焼けの色と風とが入ってきて、家のなかに溜まった灰色の点々をどんどん隅に飛ばしていった。僕には見えた。
  • でも、たぶん、僕らは単純に潰されてしまったりしない。何も両足でふんばって正面から立ち向かわなくたって――頭を抱えて震えてやり過ごすのだっていい、そいつにだめにさえされなければ。
  • 雪枝さんちの窓の光が、このなかに混じっているだろう。サトシが前に住んでいた家の灯りも、どこかにあるといい。あって欲しい。
  • もう三十分もしたら、僕たちの目の前には、この空の色を映した、まっさおな海が広がるだろう。たぶん僕が十四年間生きてきて見たなかで、一番きれいな景色になるはずだ。
  • ――今度晴れた日には、なにかとんでもなくきれいなものを見にいこう。雪枝と。そうだこのバスに乗って、坂道を越えて。
  • 塾に気になる女の子がいます。同じ小学校だった子です。僕は最後まで雪枝さんにその話をしませんでした。彼女のことを、点々と関係のない世界に置いていたからです。(略)でも無理な話なんです。それどころか、僕が、いつか彼女を悲しい目に遭わせることだってあるかもしれない。だからこそ。そこから遠ざけたいと思うことはすごく大事だと思いました。
  • アナログカメラのシャッターの音が耳の奥に残る。ひとつまばたきをしたら、空のまばゆさが目の奥を焼いた。

※全て作中からの引用

あらためて書いてみて、良い作品だなあと思いました。
こんなにも綺麗なフレーズが沢山あるんですよね。
これが中盤の「灰色の点々」がうじゃうじゃしていた頃からの緩急があって、すごく美しく感じるんですよね。

これも仕組まれているのでしょうか?
だとしたら、うまいなあ。
最後まで読んで、初めて夏の、青春の風を感じる作品でした。

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私立男子中学二年の夕陽が出会った二十四歳の雪枝。彼女の家には四年前に拾われた十九歳の聡がいた。「トクベツな自分」になりたいのになれなくて、絶望とかすかな希望の間で揺れる雪枝。そんな雪技に隷属する聡。二人の不可思議な関係に夕陽が入ることで、微妙なバランスが崩れかけるが…。青春の輝きと残酷さを刻みつけた、胸に染みる物語。

豊島ミホさんと言えば、「檸檬のころ」!

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