《随時更新中》夏に読みたい本をまとめました

芥川賞作家 青山七恵の書いた『繭』は怒涛の展開に目が離せない作品でした

本の感想
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【書評】静謐な文章からは想像できない怒涛の展開『繭』青山七恵

青山七恵の文章は、静謐で美しい。
その文章は同じく芥川賞受賞作家の、小川洋子が書く文章と似ている気がする。
波風のないさっぱりとした無機質な文章は、なんの違和感もなく体内に溶け込んでいくようだった。

だからこそ、読み始めは気が付かなかった。
この小説がいかに歪で、不安定で、綱渡りするように進んでいく物語だったということに。

静かな語りで進行していく日常にある“ひび”が、徐々に読者に伝わってき、それが広がっていく展開に、本を手放せなくなった。

徐々に明らかになる登場人物の真実

主人公の舞は美容院に経営している。
美容院は順調で、何も問題のない順風満帆な生活のように思われるのだが、
冒頭では舞が夫のミスミに対し、暴力行為を行っている描写がされている。

舞は結婚して1年目になるミスミに対し、暴力を振るう自分を止められずにいた。
ある晩、止められない暴力から逃れるように家を出ると、店のお客さんである希子と遭った。
舞は希子が同じマンションに住んでいることを知り、ふたりは交流を重ねていく。

舞がミスミに暴力を振るっている自分を止められないように、希子も恋人関係で悩みを抱えている。

――、希子は恋人のことを何も知らない。
知っていることは、

  • 彼が音声をしていること
  • 彼が渋谷に勤めていること
  • 彼が指名手配犯に似ていること

――、彼女は彼の本名も知らなかった。

舞は暴力を振るってしまうミスミを、希子は名前を知らない彼のことを、愛していた。

だからこそ、ふたりは前に進むことができなかった。
著者が「繭」に見立てたマンションの1室で歪な愛の支配にもがき苦しみながら追い詰められていく。

前編、後編で、舞と希子、それぞれの視点から語れる、「繭の中での苦悩」。

徐々に明らかになる、舞、希子、ミスミ、希子の彼の真実。

繭の中で歪な愛にもがき苦しむふたりは羽ばたけるのか

この本の魅力は、徐々に明らかになる怒涛の展開にある。
静謐で美しく静かな文章とは裏腹に、物語はどんどん展開してく。

例えば前編と後編で、視点が変わることで、見えなかった1面が明らかになる。

舞が暴力を振るっているミスミは、暴力を受けることで、舞を支配しているような1面が明らかになり、
希子が舞と交流を重ねたことにも裏が見え隠れするようになる。
また希子の彼氏にもやっぱり秘密があった。

白く美しい繭の中身は暗いのだろう。
暗い繭の中で、歪な愛に支配されたふたりは、はたして羽ばたくことはできるのか。
あるいは、繭とともに腐って消えてしまうのか。

「じゃあ普通の関係って何なの?」考は首をもたげて、微笑んだ。「普通な関係なんてどこにもないよ。この世のどんな二人組だって、いびつで不公平で、でもそれでも二人にふさわしい、ぎりぎりやっていけそうな線の上で手をつないでいるだけじゃないの?」

確かに、赤の他人が一緒に生きていくことは、とても危ういことなのかもしれない。
1つの食い違いが、体内で繁栄する寄生虫のように増えていき、関係を腐らせていくのかもしれない。

――、歪な愛を怒涛の展開ともに描き切った1作!

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美容師の舞は、結婚して一年になる夫に対し暴力を振るう自分を止められずにいた。ある晩、彼への暴力から逃れるように家を出ると、店の客である希子と遇う。同じマンションの住人と知り、二人は交流を重ねるが、希子は舞の夫のある秘密を抱え、舞に近づいていた。白壁の棲家で紡がれる歪な愛の支配にもがきながら、やがて渾然一体と追い詰められる女たち。怒涛の展開に息をのむ、衝撃の物語!

 

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