《随時更新中》夏に読みたい本をまとめました

初心者にこそオススメの伊坂幸太郎が書いた『死神の浮力』

本の感想
スポンサーリンク

【書評】魅力的なキャラが織りなす会話劇は必見『死神の浮力』伊坂幸太郎

本書を手に取った時、小雨がぱらついていた。窓の外を見ると灰色の、代わり映えのない空がどこまでも続くようで、被さった雲はずいぶん長い間、そこに居続けているような雰囲気を醸し出していた。

本書の主人公である千葉という死神が、仕事をしている時はたいてい雨が降るらしい。

しかし恐れることはない。
死神とは言え、多くの人が想像する「鎌を持ち嬉々と笑っている骸骨顔」の、あの死神ではない。

魅力的な人物、そして死神

本書に登場する死神は、きちんとした人間の姿をし、ミュージックを好み、ここ何年も笑っていなかった夫婦を幾度となく笑わせる――、そんな死神である。

死神と出会えば、多くの人の余命は7日間であるのだが、どうせ多くの人が死神と出会ったことに気が付かない。

ただちょっと人間とずれた思考をし、素手で人を気絶させることが可能で、自転車を漕げば40キロはゆうに越える――、たったそれだけの違いなので、誰もが死神なんて気がつかないらしい。

まあでもそれは当然で、そもそも死神がいることを信じている人がいなければ、それが死神だなんて気がつく人もいないだろう

特に千葉は仕事に熱心なので、できる限り対象者の近くにいれるように、怪しまれないように心がけているし、そもそも死神のくせに人間臭いところもある。

たとえば、情報部からきた対象者の情報について、

話が違うではないか。情報部に苦情を言いたい。なにが問題なしだ。結局、困るのは現場の私たちだ。

と、実に人間らしい文句を言ったり、調査部と現場でプライドのぶつけ合いが起こることもある。
こういうところは思わず、「死神のくせに」とくすっと笑ってしまう。

だがやっぱりずれているところも当然あって、それに気が付かない死神のシュールさも面白い。

例えば彼らには時間の概念が希薄で、渋滞を見、まるで参勤交代だなと呟くことがある。そして、江戸時代に仕事をしたことについて語ってしまい、山野辺夫妻を驚かすこともある。

そういう時、死神は言い訳をしない。
自信を持って言い切ることで、疑惑を払拭する。

さらに肉体的部分において、拘束され、数十回以上、足を刺されるという拷問を受けた後、

「ああ、そうだったな。足が刺されていたな。ただ、それだけだ」

と言う。
当然、拷問相手も山野辺夫妻も驚くのだが、山野辺夫妻は徐々にそんな不思議な千葉を認め、笑って見られるようになる。
そんな山野辺夫妻も魅力的な登場人物のひとり。

本書の最大の魅力は、これらの魅力的な登場人物が織りなす軽妙で、コミカルな会話劇にある。

その会話を通して物語は、ぐんぐんと、私の心を鷲掴みにしたまま進んでいった。

魅力的な登場人物が織りなす会話劇

本書は本城という男が無罪判決を勝ち取った場面から幕を開ける。

本城は山野辺夫妻の娘を殺した罪に問われていたのだが、裁判が始まると一転、本城に有利なように証言者たちが意見を翻し始めたのだった。

山野辺夫妻のもとにコメントを求めるように彼らの家に群がるマスコミを、かき分けるように男がインターフォンに近づき、「大事な情報を持ってきたんだが、中に入れてくれないか」と言った。

山野辺夫妻は驚いて、男を家に迎え入れる。
その男こそが、死神であり、千葉という男で、今回は山野辺夫妻の夫の調査にするために接触をしにきたのであった。

山野辺夫妻は本城に復讐をするため、彼が釈放されることを待ち続けてきたのだが、彼には死が迫っていて、その猶予期間は7日間。

さらに本城は天才的なサイコパスで、彼は山野辺夫妻に対して勝ち誇りたいためだけに、娘を殺し、無罪判決を勝ち取り、さらに彼らに罪を着せようと攻撃をしてくる。

しかしその本城のことを調査している死神も登場し、お互い知らないうちにタイムリミットを抱えた応酬に発展する。

本城はなぜ無罪になったのか?
果たして山野辺夫妻は本城への復習をやり遂げることができるのか?
あるいは本城がこのゲームを支配するのか?
山野辺夫妻、本城を調査する死神は、それぞれ彼らに「死」を与えるのか、それとも「見送り」にするのか?

軽妙で、面白可笑しい会話のすべてが意味を持ち、その多くが伏線として回収される。
無駄のないストーリー展開と、魅力的なキャラクターで、常に読者を魅了し続ける1冊。

死神の浮力 (文春文庫) [ 伊坂 幸太郎 ]
楽天ブックス
¥ 842(2019/06/03 22:23時点)

2005年に刊行された『死神の精度』の続編なので、まずは『死神の精度』を読むことをおすすめ!

死神の精度 (文春文庫) [ 伊坂 幸太郎 ]
楽天ブックス
¥ 702(2019/06/03 22:23時点)

コメント

タイトルとURLをコピーしました