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三大奇書『ドグラ・マグラ』の夢野久作が描く少女たち『少女地獄』

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【書評】暗闇のなか、蝋燭をつけて書を読もう『少女地獄』夢野久作

夢野久作という男

夢野久作を読んでみたいとつねづね思っていた。
ドグラ・マグラ』『少女地獄』『瓶詰の地獄』と言ったタイトルは蠱惑的で、どこか断りきれない美しさを秘め、私を誘惑し続けてきた。

その誘惑に負け、『少女地獄』を手にした時、
その蠱惑的な雰囲気のせいか――、
あるいはタイトルのせいか――、
ほんの少しの背徳感を感じた。
読み出す前からその感じが堪らなく、魅力的だった。

本書は『少女地獄』、『童貞』『けむりを吐かぬ煙突』『女杭主』の4篇から成り立ち、表題作『少女地獄』は「何でも無い」「殺人リレー」「火星の女」の3篇から構成される。

そのどれもか魅力的な話なのだが、今回は『少女地獄』を中心に紹介する。

抜け出せなくなった地獄でもがく少女たち

姫草ユリ子という女性が、臼杵という耳鼻科医に手紙を残して自殺した。彼女の書いた手紙には、白鷹という先生と臼杵先生が「二人がかりで姫草ユリ子を玩具にして、アトを無情に突き放して自殺させた」と思わせるような記述がなされていたというところから「何でも無い」の幕があがり、物語は臼杵先生から白鷹先生に手紙で過去を語る形態にシフトする。

耳鼻科医の臼杵先生は看護師の面接にきた「無邪気な、鳩のような態度と、澄んだ、清らかな茶色の瞳と、路傍にタタキ付けられて救いを求めている小鳥のような彼女のイジラシイ態度」をした姫草ユリ子の魅力に取り憑かれ採用し、さらにその鼻に惚れ隆鼻術を行った。

姫草ユリ子はそれによって「とんでもない美人」になる。
それだけでなく彼女は看護師としても優れているので、臼杵耳鼻科医のマスコットとして定着し、院内や、臼杵の家族からも必要とされる存在になる。

しかし長いこといると、どこか彼女について辻褄が合わないところが見えてくる。例えば臼杵先生の大学時代の大先輩である白鷹先生と彼女が知り合いで、臼杵先生が白鷹先生に会えるように取りなしてくれるというのだが、どうしても会うことができない。
白鷹先生からの電話や訪問は決まって臼杵先生のいない時に姫草ユリ子が対応するのだ。

それを臼杵先生の妻は、不審がる。

「いいえ。それが変なのよ。だって、あまりにも廻り合わせが悪過ぎるじゃないの。あたしは何だか、姫草さんが細工して、合わせまい合わせまいと巧謀んでいるような気がするの」

妻の不審感は正解で、彼女は実は虚構(嘘)の天才だった。
しかしいくら天才とは言えついた嘘を、信じ込ませるためにまた嘘をつかなければならない。
嘘をつき続けるしかなくなった少女。――そんな彼女の行き着く先は……。

 

殺人リレー」もまた1通の手紙から幕を開ける。
差出人は友成トミ子で、彼女の職場にある男が転職してきたことが書かれている。
その男は彼女の友人である月川ツヤ子の元婚約者で、殺人犯だった。
殺人犯と言っても確証はなく、月川ツヤ子が手紙で、「殺されそうな感じがしてならなかったのですよ」と書いていたに過ぎないのだが――。

友成トミ子はしかし確信していた。
そのため仕事中、彼を熱心に監視した。
彼はその目つきを勘違いして、彼女にプロポーズをする。彼女はツヤ子の敵討ちをするために、男のプロポーズを受け、騙し返そうとするのだが、徐々に男には惚れていき……。

あたし近いうちに殺されそうなの

 

火星の女」はニュース記事を追うように事件の本質に迫っていく構成をしている。

県立女子高の廃屋が全焼し、20歳前後の少女の死体が発見された。
他殺か自殺か――、
ニュースを追うごとに入ってくる新情報。
校長先生の失踪、女性教師の自殺――……。

最後には死んだ少女の手紙が発表される形で事件の全貌が明らかになる。
彼女に、その高校に隠された謎とは。

 

少女地獄』はシンプルだ。
例えば、「何でも無い」でエンタメ性を求めるのであれば、臼杵先生の家を嘘で破滅させることも可能であった。そうしたほうが探偵小説としては評価されたかもしれない。
――、だが、夢野久作はそうしなかった。
彼が書きたかったのはあくまでも「少女」だ。

この小説には3人の少女が登場する。
年齢は18歳から25歳くらいで、少女と言えるのかどうか、微妙なところだが、夢野久作は見事に彼女らを「少女」として書ききっている。

姫草ユリ子が嘘をつく理由、友成トミ子の近視眼的で盲目的な愛、県立女子高で少女が黒焦げになった理由。
これら物語の肝が彼女らをより少女らしくしているのだ。

その肝はぜひ実際に読んで体感してほしい。
物語の巧妙さと感じる背徳感。
そして地獄に向かってがむしゃらに走り続けるしかない少女たちの誘惑的な振る舞い。

おどろおどろしい表紙、蠱惑的なタイトル――。
これらからは想像もできない純真無垢な少女性が本書にはある。
そしてその純真無垢な少女性が、このタイトルと表紙を生み出すのだ。

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可憐な少女姫草ユリ子は、すべての人間に好意を抱かせる天才的な看護婦だった。その秘密は、虚言癖にあった。ウソを支えるためにまたウソをつく。【夢幻」の世界に生きた少女の果ては…。

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