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太宰治賞、三島由紀夫賞を受賞、完成されたデビュー作『さよなら、オレンジ』

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【書評】書くということ、届けるということ、言葉を巡る物語『さよなら、オレンジ』岩城けい

完成されたデビュー作

読み始めてから読み終えるまでの期間、この本が常に頭の片隅に居座っていた。
公園を歩いている時や電車に乗っている時、何も意識していないのに、読み途中のストーリーがずっと頭の中に流れている。
特別なストーリなんてこともなく、ただ淡々と進む物語は、私にとってはどこか遠い世界の話だが、今もきっと存在する本物の物語だ。
静かで、切なくて、大きな波がない。
だけどどうして、始終心が揺さぶられて仕方がない。
岩城けいが書いた『さよなら、オレンジ』はそんな作品だ。

岩城けいのデビュー作品で太宰治賞受賞作品。
それは処女作とは思えないほどの完成度で、芥川賞候補、大江健三郎賞受賞、三島由紀夫賞候補、そして本屋大賞4位に選ばれた。

書くコトで、届けるというコト

同作は2つの物語が絡み合うようにすすんでゆく。
1つはオーストラリアの田舎町に流れてきたアフリカ難民サリマの物語。
サリマは内戦から逃れるようにオーストラリアに難民としてやってきた。
夫には逃げられ、技術も何も持たない彼女は、生鮮食料の加工の仕事を朝3時から行うことで、息子2人を育てている。
仕事のあとに職業訓練学校で英語を勉強していて、そこで2人の女性と知り合った。
ひとりは「ハリネズミ」と呼んでいる東洋人で、彼女は帰るべき故郷も話すべき母国語もないサリマとは違って主婦のかたらわ趣味で英語を学んでいるようだった。
もうひとりは「オリーブ」と呼んでいるイタリア人で、彼女は就労経験もなく、現地人の夫に頼りきっているようにサリマには思えた。
サリマは2人の友人を自分の境遇と重ねて、怒りや羨望を覚えるのだが、当然のように2人にも苦労や苦悩があって、同じように楽しいできごとや辛いできごとがある。
そんな3人は徐々にお互いに心を開いていく。

もう1つの物語はオーストラリアで暮らす日本人女性の物語で、恩師に向けた書簡形式で展開する。
彼女は夫の都合で住み慣れた都会から海辺の町に町に引っ越してきた。彼女は役所に紹介され、職業訓練学校へ通い始めた。職業訓練学校ではパオラという女性やナキチというアフリカ系女性と知り合う。
彼女は娘を連れて職業訓練学校へ通っていたのだが、娘を託児所に預けて大学へ通い始めた。そんな時、思わぬ不幸が彼女を襲った。
立ち直るために働き始めた生鮮食料の加工センターでナチキと再会した。
書くことをに魂を売った彼女は日々書くことの難しさに苦悩している。
そんななか、ナチキが書いた作文が彼女に書くということの本質を伝える。

恐ろしく稚拙でした。でも、先生、私はあれほど読む人に迫る強烈な文章を読んだことはありません。技術に頼らず、こんなに大きな声が出せるのかと目が覚める思いでした。

ナチキには国もなければ母国語もない。
しかし彼女は勉強中の言葉で、多くのひとに届く言葉を書いたのだった。

“書くこと”とは大きな声を出して届けることだ。
そのために言葉は必要だが、例えそれが稚拙だろうと相手に届けさえすればそれで良い。

この物語は“書くということ”を探りつつ、“難民・女性の生き方”について書かれている。
読んでいるうちにサリマとナチキの物語は徐々に重なって読者に届く。
それを受け取った私たち読者は“書くということ”や“難民・女性の生き方”について、改めて考えさせられる。
岩城けいの『さよなら、オレンジ』はそんな作品だった。

オーストラリアに流れてきたアフリカ難民サリマは、精肉作業場で働きつつ二人の息子を育てている。母語の読み書きすらままならない彼女は、職業訓練校で英語を学びはじめる。そこには、自分の夢をあきらめ夫について渡豪した日本人女性「ハリネズミ」との出会いが待っていた。人間としての尊厳と“言葉”を取り戻し異郷で逞しく生きる主人公の姿を描いて、大きな感動をよんだ話題作。第8回大江健三郎賞、第29回太宰治賞受賞。

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