実験的小説? 挑戦的小説? とにかく止まるな、想像しろ。古川日出男の『ハル、ハル、ハル』

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【書評】想像しろ! ノンストップで進む “とんでもない作品”『ハル、ハル、ハル』古川日出男

「人生は道だ」ともっともらしく例えてみる。
いま生きている全てのひとに、歩いてきた道は存在する。で、たぶんだけれど明日の道も用意されている。

だからこそ必然的に物語にも過去と未来を求める。
赤ん坊の頃から追える物語なんて存在しないので、当然のように物語は、唐突に目の前に現れる。
そこから過去か未来が語られるのだ。
そのどちらかに比重が置かれているとき――、
例えば未来を語る物語。
例えば過去を語る物語。
そのどちらかだろうと、どちらも大切に扱われる。
未来を語るうえで過去は蔑ろにできないし、過去を語る場合は未来を蔑ろにできない。
そこには非常にセンシティブな関係が存在している。

だからこそ、

この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ。

という冒頭は度肝を抜かれた。
この言葉通り、本書で登場人物の過去は語られない。
読んでいるひとが今まで読んできた物語や体験してきたことの続編なのだから。
そのため想像するしかない。
過去が語られない物語、前だけを向いて加速する物語に置いていかれないように、想像しろ。

前口上が長くなったが、
古川日出男の『ハル、ハル、ハル』は冒頭から読者の度肝を抜いて、これからとんでもない作品を読むのじゃないかという期待させる作品だ。

ノンストップで、ゴールに向けて走り抜けろ!

本書は3人のハルが登場する。

ひとりは藤村晴臣(13歳)。
彼は冒頭からカウントダウンを始める。
「あと9。あと8。あと7。」
なんのカウントダウンかはすぐに明らかになる。それは万札のカウンドダウンだ。彼は弟と2人で暮らしているのだが、なぜその状況にいるのかは明かされない。

なぜ明かされないのかというと、
この作品は「全部の物語の続編」だからだ。
ここにそれを書く必要がなければ、この物語だけで書けるはずもない。
読者が生きてきた道によって違うのだ。
だからこそ本書の語り手は言う、

「それは勝手にきみがイメージしろ」

そんなことで、藤村晴臣(13歳)は弟ふたりで貧困の状態にいる。しかし彼らには解決方法がない。
遂に弟は箱根山でUFOを見たと現実逃避をはじめる。そして彼は自分が異星人だと思い込んだ。
「でも(星に)帰らないと」と彼は言う。
藤村晴臣(13歳)は、拾った拳銃をこめかみに向ける。
「おい大好きだぞ、お前が帰りたいなら。お前が本当にそこに帰りたいなら。帰してやる。」

藤村晴臣(13歳)は箱根山に向かう。
殺した弟が無事に星に帰れたかを確認するために。

そこで藤村晴臣(13歳)は深夜の箱根山で踊っている大坪三葉瑠(16歳)とであった。
大坪三葉瑠(16歳)にも来歴はない。
彼女がなぜ、深夜の箱根山で踊っていたかはわらからない。
だが、彼らは出会った。いま出会った。
――物語はまた始まる。

最後のハルは原田悟(41歳)。
ふたりは原田悟(41歳)の運転するクルマに乗り込んで拳銃を見せて、カージャックをする。
偶然そこにいた原田悟(41歳)がなぜそこにいたか、どうしてタクシー運転手をしているかは、当然わからない。

だかこの瞬間、このシーンを読んだ瞬間――、

この物語に接続された。
そして。いいか。ロード・ノベルには終着駅が要る。

ハル、ハル、ハル』は3つの物語を接続させて、終着駅へ向けて走り抜ける。
止まることはない。なぜなら過去がないからだ。
ただ何も考えずに前を向いて走ることしかない。
だからこそこの物語にはスピード感がある。
読者の過去を巻き込んで、想像させて、終わりまで突き抜ける。
古川日出男の『ハル、ハル、ハル』はそんな作品だ。

「この物語は全部の物語の続編だ」-親に捨てられ、行き場を失った少年と家出少女、リストラされた中年男。世間からはみ出してしまった3人のハルが世界を疾走する。乱暴で純粋な人間たちの圧倒的な“いま”を描き、話題沸騰となった著者代表作。表題作に加え、「スローモーション」「8ドッグズ」を収録。

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