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天才作家 鷺沢萠が描く青春小説『葉桜の日』

本の感想

【書評】青春とは自らに深く潜り込むこと

世の中には ‘ 天才 ‘ と呼ばれる人が存在する。
そしてその多くは若かりし頃に才能を開花させ、脚光を浴びる。

鷺沢萠もそんな天才のうちの1人らしい。

本書『葉桜の日』には表題作の「葉桜の日」と「 果実の船を川に流して」が収録され、それぞれ「芥川賞候補」「三島由紀夫賞候補」に選出されている。

そして驚きなのは、そんな完成度の高い作品を鷺沢萠は22歳までに書いたという。

世の中には手を伸ばしても決して届かない才能があると本書は教えてくれた。

「葉桜の日」のあらすじと魅力

先にも書いたが、「葉桜の日」は芥川賞候補に選出されている。

古井由吉に「達者な小説である」と、三浦哲郎には「驚くほどなめらかな叙述で、一気に読めた」と評価された。

――が、惜しくも芥川賞は逃した。
まあ、 第104回芥川賞は小川洋子の『妊娠カレンダー』なので、相手が悪かったと思うしかない。

そんな「葉桜の日」は、青春小説である。
桜の下で、制服と制服がふれあい、微笑みと恥じらいが溢れた学園モノではなくて、自分のルーツを探求するアイデンティティ小説。

主人公の譲二は4、5際の頃に有限会社の社長である「志賀さん」に引き取られた。

譲二にはその頃の記憶がないので、生みの親が誰なの知らない。

彼の本名は賢佑という。フリガナを付けないと読めない本名はマサヒロと読むらしい。

「譲二」という名は志賀さんが譲二を引き取った際につけた名で、彼女は彼の本名を極端に嫌っていた。

そんな彼は、よくある反骨精神を持ち “ぐれたり ” せずに、まっすぐな性格に成長した。しかし彼の中にはルーツを知りたい「僕って何?」という思いがあり……。

――そんな彼のルーツは物語の進行とともに明らかになっていく。

本書の魅力は「滑らかな物語進行」だ。
主人公のルーツや周りの人の秘密が明らかになっていくのに、大きな起伏として感じられない。

そういったものをメインに持ってくることで、物語を盛り上げる小説が多いなか、本書は静かに確実に進んでいく。

――たぶん、ホンモノの人生なんてこんなものなのだろう。

そのような構成だからこそ、これを22歳までに書いたということが考えられない。
小説家になりたい私も、ここまで才能があると、もう嫉妬もできない。

ルーツという難しいアイデアをうまく使い切り、しかしそれに依存しない物語構成はみごとだった。

また終わりも非常に良いので、多くの人に読んでほしいと願う1作。

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