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【小説】夢から覚めない、永遠に(14279字)

夢から覚めない、永遠に 創作

――、水路の中にいた何かと、その先がどうなっているのか気になって眠れない。

 

「水路の先に何があるかって?」

水路の旅の際に降り始めた雨が、梅雨入りの合図となったかのように、どんよりとした日が続いている。友人は私の質問にうさん臭そうな顔をした。

「しかし今年は嘘のように雨が多い」

「今年は特にね。なんだか奇妙な天気だって、煙草屋の婆さんが言っていた」

「なるほど」

「それで、水路の先だっけ? 水路の水はすべて庭園に流れ込むのさ」

「すべて?」

「そう、全て。ここの水路は庭園に始まって、庭園に終わる」

「庭園から庭園へ?」

「俵藤さんの家のお庭から、厨楽園。まあ自分で行ってみればいいよ」

「なるほど。ところで、水路には何か住んでる?」

友人はそれを聞いてはっとしたような顔をした。

そうして、

「なに云ってんだよ、恐ろしい、これだからきちがいはイケナイよ」

と云って何処かへ行った。

 

家に帰ると、アパートに警察が来ていた。どうしたのかと不思議に思っていると、どうやら私の隣の部屋である、イズミさんの部屋を調べているらしい。そのうち、私の部屋にも警察が来た。警察は私の部屋にある笹船を見て驚いたようであった。私は適当に言い訳をしたが、何か怪しまれているようで、そわそわした。

「お隣のイズミさんのことですが、ここ最近何か変わったことはありましたか?」

「いいえ、特には」

「イズミさんとは会うことはありましたか?」

「ええ」

「それはお隣さんとしてですか? ……あるいは友人として」

「ただの隣人よりかは仲良かったと思いますが、どうかしたんですか?」

「なるほど。ありがとうございました」

「どうかしたんですか?」

「どうも自殺したらしいのですよ。女と一緒に」

と云って、彼は少し笑ったように思われた。

警察は事件性がないと判断したのか、その日はすぐに帰って、それ以降もう来ることはなかった。

 

泉信二さん(32)と奥方治子さん(82)が増水した用水路で遺体となって見つかった。二人は手を繋いだ状態で、さらに紐で固く結んであった。二人に血縁関係はなく、警察は心中と云う見方をしている。

 

奥方さんが入れ歯の老人だということはすぐに分かった。

私はすべての笹船をゴミ袋に入れて、それを用水路に流した。そうすることが、私にできるイズミさんへの唯一のことであろうと考えた。

 

「君は僕のどこが好き?」

「声が綺麗なところ」

「なるほど、じゃあ僕が声を失ったら別れるんだね?」

「ええ、もちろんよ」

男は口に指を突っ込んで、にやにや笑っている。

女はそれを必死になって止める。

「辞めて、……私からあなたの声を奪わないで」

女の悲痛な叫び声が公園内を反響する。

むしゃくしゃしている私は、そのふたりの目の前に近づいてじっと見た。

口に指を突っ込んでいる男は泉さんで、それを必死に止めているのは、入れ歯のお婆さんである奥方さんであった。

私ははっとしてそこを逃げ出した。

――、目が覚めた。

外はまだ暗く、雨がしんしんと降っていた。この雨はもう止むことがないんじゃないかと強く思った。

 

バスに乗っていると、そこまでイズミさんと仲が良かったわけでもないのに、涙がこぼれて仕方なかった。

目の前に座っている幼女に、

「お兄さんは、何がそんなに悲しいの?」

と聞かれた。幼女の隣に座る男は私に懸命に謝っている。私は涙を止める方法を知らず、運転士に頼んでバスを降ろしてもらった。

歩いて帰っている時、横に寄り添うように流れる用水路に一隻の笹船を見つけた。笹船は雨と波に揉まれながらも、懸命に前へと進んでいる。

 

久しぶりに行きつけであった喫茶店にいたずらしようと考えたが気分が乗らない。

喫茶店の目の前でただうろうろして帰宅する。

相変わらず雨はやまないようであった。

 

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