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歴史小説家 東郷隆の描く少し昔の東京『明治通り沿い奇譚』

本の感想
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【書評】『明治通り沿い奇譚 』(東郷隆)の感想

これだから読書は辞められない。

ふらりと寄った町の、古びた古書店。
100円均一ワゴンに並ぶ本のタイトルに目を奪われた。

『明治通り沿い奇譚』

作者の名前は「東郷隆」という。

なんだか文学人というより武人のような名前をした作者の名前を見て普段であれば買ってみようなんて思うことはなかっただろう。

だが、知らない町の知らない古書店という雰囲気に酔っていたせいか、ついつい手に取り、レジスターの前に座るおじさんに本を差し出していた。
おじさんはちらりと私を見、無言で本を手渡した。負けじと無言で100円玉を出し、本を手に取り帰宅の途につく。

その途中、もしや108円だったじゃないかと不安の念にかられたが、もう来ることはないと思い忘れることにした。

ちょっとした旅行のお供を積読本の中から探しているとき、本書を見つけた。

あれからそんなに日が経っているとは思えなかったが、本書はひどく下の方に埋もれていた。

そして旅先、本書を開き、はっとした。
読んでいる途中で、この本が傑作であることに気がついた。

あらすじと構成、本の感想と魅力

本書は物書きである東郷が、物や事にまつわる不思議な話を聞き、その語りを記すという構成になっている。

ここに登場する物事は、

  • 花見(チンドン屋)
  • 見世物小屋
  • 銭湯のタイル絵
  • キリム
  • フェズ
  • 陶器の枕
  • 春画皿

ひと昔前のもの、異国情緒のあふれるものが多い。それはたしかに魅力的なものだが、これだけ見ても特別どうということではない。
しかしそこに物語が加えられることにより、それが特別魅力的なものになるから不思議だ。

例えば春画皿を扱った「盃の中」では、春画皿を作っていたの老人が昔語りをする。

その内容は、

老人も含めた画家仲間で宴会をしているのだが、盛り上がりに欠けた。

老人は居心地が悪くなり、一服するために外にでる。そこで同じようにして逃げてきた友人で主催者の男と女を見つけた。

友人はその女に心付けを渡し、酌をしてくれないかと頼み込む。すると女はそれを引き受け、3人で場に戻るのだが、それからというもの恐ろしいほどに宴会は盛り上がった。

老人が廊下に出るとその宴会場の女主人が、そろそろ女の子を呼びますという。

そこでもう女の子はいらないよ、と老人がいうと女主人はとても不思議そうな顔をした。

なんでもここには酌をできるような女はいないという。

不思議に思ってふたりで場を覗いてみると、男たちはやっぱり女に酌をしてもらっているのだが、女は顔がふんわりと浮いている。

女主人は卒倒し、老人は呆けたまま動けなかった。

そして次の日、女に心付けを渡したところに皿が落ちていた。その皿は角度によって顔が浮かび上がる春画皿だった。

そしてその顔は、昨日の昨日の女だった。

というもの。

本書には、登場する物の数だけ物語がある。

それは現実世界でもそうで、何も物語を持たない物質なんてどこを探しても見つからない。
それを無視するか、読み取ろうとするかの違いで、生き方の豊かさが変わってくるんじゃないか。
それを読み取り、想像しながら生きていきたいと思えた1冊。

古本屋で買った本書、いろいろな人に読まれてきたのだろう。焼けた背表紙、紙魚の跡、挟まれた栞。読了後、思わずこの本が読まれてきた姿を想像し、この本が持つ物語を想像した。

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