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毎日文庫創刊の第1作目は中村文則の圧倒的人間ドラマ『あなたが消えた夜に』

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【書評】純文学と警察小説の融合。 圧倒的人間ドラマにページをめくる手が止まらない『あなたが消えた夜に』中村文則

悪夢と中村文則

怖い夢をみた。
うなされるように目を覚ますと、枕元に中村文則の『あなたが消えた夜に』があった。
中村文則を読んだから悪夢を見たのかもしれないと、ふと思った。中村文則を読んでいれば、見てもおかしくない。
時計を見るとまだ5時で、仕事まで憂鬱な時間を過ごさなければならない。
もうひと眠りして、この憂鬱をなかったものにしようとしたが、本の続きが気になって仕方ない。
この本にはそんな麻薬的なところがある。
開きかけの目を擦り、読書灯を点けて読み始めた。
早速、脳内に快楽物質のような憂鬱と暴力が注ぎ込まれる。
その瞬間、自分の抱える憂鬱の小ささに気が付かされ、どこか安心まで感じるのである。
中村文則の『あなたが消えた夜に』はそんな本だ。

中村文則が書いた16冊目の小説で、毎日文庫創刊の第1弾になった記念小説。
また著者初の新聞連載で、初の警察小説。
初めてづくしの小説だが、いつもの中村文則は健在で、むしろ生き生きしているように物語は進んでいく。

圧倒的人間ドラマ

同作は、ある通り魔事件とともに物語がはじまる。
そこから1人、2人、3人と殺されていくなか、マスコミは“コートの男”と異名をつけて報道を過熱していく。
また最初は久しぶりの昇進チャンスで浮き立っていた警察社内も人が死ぬにつれて徐々に焦りが浮かぶ。

所轄の刑事である中島はパートナーを組んでいる捜査1課の小橋と犯人を追いかけるが、事件は意外な複雑さを顕にしていく。

この通り魔はなぜ起きたのか、誰が引き起こしたのか、そしてどのような思惑があったのか、複雑に絡み合っているように思える糸の真相は――?

「名探偵がいない」、これは作中にでてくるタイトルの1つだ。

現実に名探偵などいない。
名探偵がいないせいで、次の犯行を止められない。

現実はそうだろう。
シャーロック・ホームズもいなければ金田一耕助もいない。当然だ。
しかしフィクションには名探偵が許されるのだ。
この小説だって名探偵がいれば、500近くのページ数は必要じゃなかった。

しかしもし名探偵が同作に登場したらとても陳腐な小説になったに違いない。
実際、第1部から3部まであって、事件はほとんど1部で完結している。
2部と3部はどうしてこの事件が起こったのかを中心に語られているのだ。

この物語の魅力は圧倒的人間ドラマだ。
名前を覚えられないくらいの人数の登場人物がすれ違うように、物語を闊歩する。
その人たちにはそれぞれの思いや思惑や過去や苦しみがあって、それぞれが衝突したとき、事件が起こる。

500近いページを飽きさせない。
次々と起こる物語が、読者を飲み込むように出現する。
中村文則の『あなたが消えた夜に』はそんな作品だった。

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