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【書評】晴天の、春風の気持ちいい『羅生門』芥川龍之介

本の感想 本の感想

「偸盗」について芥川龍之介は「一番の悪作」と語った。果たしてどんな物語なのか。――、簡単に言うと「メロドラマ」である。


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著者:「芥川龍之介」情報

芥川 龍之介(あくたがわ りゅうのすけ、1892年(明治25年)3月1日 – 1927年(昭和2年)7月24日)は、日本の小説家。本名同じ、号は澄江堂主人(ちょうこうどうしゅじん)、俳号は我鬼。
その作品の多くは短編小説である。また、「芋粥」「藪の中」「地獄変」など、『今昔物語集』『宇治拾遺物語』といった古典から題材をとったものが多い。「蜘蛛の糸」「杜子春」といった児童向けの作品も書いている。
(ウィキペディアより)

「羅生門」抜粋

王朝末期の荒廃した都を舞台に展開する凄惨な人間絵巻「羅生門」、師漱石も賞賛した、長い鼻を持つ禅智内供の内心の葛藤「鼻」、芋粥に異常な執着を持つ男「芋粥」、女をめぐる盗賊の兄弟の確執「偸盗」。いずれも『今昔物語』『宇治拾遺物語』などに素材を得たもので、芥川王朝物の第一冊として編集。
(「BOOK」データベースより)

晴天の、春風の気持ちいい羅生門

風が吹いて、カーテンが膨らむ。高校生になって2ヶ月ほど、クラスに漂う空気も少し打ち解けたように思われる。開け放った窓から吹き込む風で、ノートがぱらぱらとめくれる。
まだなれないワックスで固めた髪の毛が、少し気になって携帯の画面でソッと確認する。
1年生は最上階で、膨らんだカーテンの隙間から見渡す景色は、延々と田んぼが広がり、なんだか、じっと見つめていると眠気を誘われる。
思わずあくびをしてしまい、それを見つけた友人がくすくすと笑った。そうして彼もこっそりあくびをかみ殺している。
――、長閑な午後のひとコマ。
先生の声は遠く、青空には白い点がひとつ、尾を引くように飛んでいる。
黒板に書かれた文字は暗号のようにうねうねとしていて、見ていると体が心地よい重さで沈んでいくように感じられた。
――それは唐突だった。
「――、下人のにきびが」と先生の言葉が妙にリアルに聞こえてきた。
「にきび?」
今まで、遠くの世界にいた「芥川龍之介」「羅生門」という文学作品が「にきび」という言葉を通して急にリアルに感じられた。
教科書を見るとなんと大正4年の作品である。
その頃から「にきび」は若者の象徴だったのかと思うと急に、「羅生門」が身近に感じられた。
その思いを胸に改めて、「羅生門」を読み直した。先生の声が聞こえないくらいに集中した。
心は飢饉で衰微していた平安時代にいた。妙にリアルで、下人と老婆が目の前にいるようであった。始終赤黒い物語には包まれているようであった。
誰かが筆箱を落とした音で、ハッとした。
思わずあたりを見渡すと、何人かはこっくりと船を漕いでいて、何人かはもう夢の中にいた。
先生は相変わらず気のない顔して、自分で書いたノートをただただ黒板に板書していた。
誰もが不満のない麗らかな午後のひとコマであった。膨らんだカーテンでは抑えきれくなった風が、また髪の毛を揺らした。
陰鬱とした羅生門を読んで、のんびりとした高校時代のひとコマを思い出した。

天才 芥川のメロドラマ

この小説集には4作品が収められているのだか、そのうちのひとつ「偸盗」について芥川龍之介は「一番の悪作」と語ったというが、その作品も含めて4作品、全て面白いのである。
きっと凡人には理解できないレベルで作品作りをしているのだろう。

「偸盗」を簡単にまとめると、

沙金という盗賊の女頭に太郎、次郎の兄弟が一目惚れをする。
そのことで関係が悪くなった兄弟――、お互いが嫉妬しあっている状態に陥っている。
そんなか、次の押し入り先の人と沙金が話しているのを次郎が見つける。なんと沙金は弟と一緒になるために、押し入り先にリークをして、太郎を死なせようとしているらしい。果たしてどうなるのか。
と言った、具合である。
要は簡単に言うと3角関係であるが、実際はもっと込み入っていて、
  • 沙金に恋をしているのは、「太郎、次郎、猪熊の爺(沙金の義父)」
  • 弟に恋をしているのは「阿濃(沙金の妹分)」
  • 猪熊の爺に恋をしているのは「猪熊の爺の妻」

こんな感じになる。
簡単に言うと「メロドラマ」である。
芥川龍之介の書いた「メロドラマ」である。

なかでも印象に残るのは猪熊の爺、婆の関係である。
猪熊の爺は沙金に近づくために、猪熊の婆と結婚する。それを知っていて、猪熊の婆は猪熊の爺を思っているのである。
ふたりのクライマックスのシーンでは少しだけ胸に迫るものがあった。

とはいえ何と云っても「メロドラマ」である。
芥川がこの作品を恥ずかしがるのもわかる気がする。
文壇の中心にいた人物が、ただの「メロドラマ」を書いてしまったのだから。

しかしそこは天才 芥川龍之介で、ただの「メロドラマ」であっても抜群に面白い。
やはり天才は違うなあと思わせる作品になっている。

なんせあんなにかっこよくて、良い小説がかけるくせに「僕の将来に対する唯ぼんやりした不安」と言って自殺する人間である。
凡人が理解できる範囲におさまっていないに違いない。

「羅生門」「鼻」「芋粥」「偸盗」の4 編が収録。
青空文庫でも読めるのでこちらもどうぞ。

「芥川龍之介」のおすすめ本

歯車―他二篇 (岩波文庫 緑 70-6)

自ら死を決意した人の、死を待つ日々の心情が端的に反映されている。
初期の作品とぜひ比べて見てほしい。

この本を読んだひとにおすすめの本

冥途・旅順入城式

収録されている「山高帽子」には死にゆく芥川龍之介が描写されている。

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