《随時更新中》1分間で読める創作集 >

【紀行】「三養荘」訪問記(伊豆長岡)

富士山 創作

私は旅館が好きで、しばし旅行に行く。『新井旅館』、『うおき』、『伊藤屋』等々。
なので、今回の旅行で唯一目的と言えるものは、『三養荘』であった。

地獄のドライブから地獄の釣りを経て、私達は三養荘へ向かった。
途中、お土産どころみたいなところを発見して、猪最中なるものを買った。
「これは男気じゃんけんでしょう」
と言って始めたが、何だかみんなもうルールを忘れている。
「あれ? いま俺は勝ったから負け?」
「いや、男気なんだから勝ちだよ」
「え?」
「喜ばないと!」
「よっしゃ、勝った」
「じゃ払って」
「え? なんで?」
と、イマイチ盛り上がりにかける。
そんなこんなで、やっと手に入れた猪最中。これが実に美味しいのである。猪を模した最中の中にぱんぱんに粒あんが詰まっている。

伊豆 猪最中
「これはインスタ映えするわ」
そう言って各々カメラを向ける。
そんななか、U君はひとりブッセを食べている。
「猪最中食べないの?」
「あんこ嫌い」
「え、そうなの? 前、赤福食べたじゃん」
「あれは君に食べさせられたんだよ」
U君が怒ったように言ったが、私はそのことを覚えていない。
猪最中で、先程食べたニジマスを消しながら宿に向かっている。車内はどこか生臭い気がするが気のせいだろうと思いこむようにする。

「生富士!」
誰かが叫んだ車内ではクリスマス曲特集が組まれている。
「〽クリスマスは今年もやってくる」
という男たちの合唱はどこか鬼気迫るものを感じる。
「そもそも生富士ってなんだよ」
と、ふと思うが声には出さない。
「これケンタッキーのCMだよね?」
「そうそう、ケンタッキー」
「クリスマスにケンタッキーなんて食べる?」
「俺はてりやきチキン」
「俺はモスチキンだなあ」
なんて各々意見を言っていると、伊豆長岡についた。
温泉街を予想していた人たちは、なんだかショックを隠せない様子である。
「細い階段はないの?」
「射的は? スマートボールはないの?」
「温泉饅頭は?」T君が言って、
「いや、さっき猪最中食べただろ、でぶ」とB君が言った。
理不尽極まりないことであるが、文句を言う前に三養荘に到着した。

三養荘 入り口

まず車を止めるところが分からない。
「ここでいいんだよね?」
「エントランス前まで持っていけば、勝手に動かしてくれるよ」
「まず、エントラストがわからない」
「そもそもなんで、お出迎えがないの?」
「見て、クルマ、ベンツばっかり」
「俺らなんてエースだぞ!」
「しかもハイ、エース!」
「とりあえずここ止めるわ」
とT君が言って上手に止めた。
「ナイッスー」とB君が拍手をした。
車から出てしばらくうろついてると、ようやくお出迎えがきた。

三養荘 エントランス

三養荘 障子

チェックインを済ますと私たちは部屋へと案内された。

三養荘 客室
部屋は広く、半露天の内風呂まであった。
効きすぎた暖房に文句を言いながら、長時間露光を使って心霊写真を撮ろう挑戦したりしながら、夕食の時間を待った。

三養荘 客室の庭
私達は夕食が部屋食でないことに文句を言いながら食事処へ向かった。
席について、早々に朝食の時間を聞かれた。
「7時30分でお願いします」
「アレルギーの方は?」
私は手を上げた。
「そばですよね?」
「あとナッツ類」
「承知いたしました、あともうひとりいるらしいのですが」
私達はそれぞれ顔を見渡した。
「あれ、B君って卵アレルギーじゃないの?」
予約したT君が言った。
「アレルギーって程じゃないわ」
「でもそれで予約しちゃったよ」
B君の料理からは基本的にたまごが消えた。
隣に座る私の卵焼きを羨ましそうに見ている。
帰り際にまた朝食の時間を聞かれる。そうして、帰りの廊下で三度、朝食の時間を聞かれた。
「お節介がすぎるわ」
とU君が笑った。

私たちはそれから温泉に入って、部屋に戻ると宴会を始めた。当然やることは「ワードウルフ」である。みんながみんな、疑心暗鬼になりすぎて、すんなり進まない。
「まず、これをこうなったらどうする?」
「覗きをする(笑)」
「銀行強盗するね」
「でも一生このままだと嫌だよなあ」
「嫌っていうか、それは存在していることになるの?」
これは「時間を止められる」(市民)と「瞬間移動ができる」(ウルフ)なのだが、みんなが自分をウルフだと思い込み、さらに市民のテーマが「透明人間になれる」だと思って話を進めた稀有な例である。
「これじゃゲームにならないわ」
とR君が言った。「もう寝よう」と。
それからもしばらく話したが、私はその話題について何も覚えていない。ぼやぼやとした記憶の中、なんだか妙に笑っていたことは覚えている。
布団に入るとT君が急に話をまわし始めた。しかしみんなはもうそのテンションじゃないので、続々と落ちていく。
「なあ。R君、あれ、寝た? 嘘だろ」
T君の騒ぎを横に私も眠りについた。
翌朝、朝食を食べると三養荘のお庭案内に参加した。広々としたお庭に、さっぱりとした秋晴れが覆いかぶさって、気持ちいい。

三養荘 庭 三養荘 庭 三養荘 庭

それから帰路についた。3連休の終わりは混んでいて、なかなか進まない。T君は3時間かけて20キロ走った。
「歩いたほうが早い」
「間違いない」と頷きあった。
私はそれから最寄りのサービスエリアに降ろしてもらった。
サービスエリアから徒歩で出ると、華やかな世界から音が消え、急に別世界に出たように感じられた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました