《随時更新中》夏に読みたい本をまとめました

教科書にも掲載『山椒魚』の井伏鱒二が書いた軽妙洒脱な物語『駅前旅館』

本の感想 本の感想

【書評】今すぐにでも駅前旅館に泊まってみたくなる『駅前旅館』井伏鱒二

酔っぱらった文豪のおしゃべり

井伏鱒二と言えば有名な作家だが、『山椒魚』しか読んだことがなかったので、「教科書に載っているような作品を書くお偉い小説家」というイメージを持っていた。

だから本書『駅前旅館』を読んで、「こんなハチャメチャな小説を書く人だったのか」と衝撃を受けた。
ハチャメチャというと悪いように聞こえるかもしれないが、決して悪い意味ではない。

ではいったいどのようにハチャメチャなのかと言うと――、
本書は、酔っ払った話好きのおじさんが、延々と話しかけてくるような小説だ。
酔っぱらったおじさんの話が好きな人は(そんな人がいるとは思えないが……)、ぜひ一読の価値あり。

消えた駅前旅館に泊まってみたい

『駅前旅館』はタイトル通り、駅前旅館が舞台となっている。
駅前旅館と聞いてもピンと来ないが、たぶん大きい駅の近くにたまにある「〇〇屋」とか言うやつがそうなのだろう。
なんでこんなところに旅館がと思っていたが、昔は「商人宿」とも言い大盛況だったたらしい。

駅前には宿屋の客引きがわらわらと迎えにきて、どら声で「らっしゃい、らっしゃい」と叫んだらしい。

しかし今、もうそんな姿が見られることはない。
駅前には似たりよったりの「ビジネスホテル」が乱立し、代わり映えのない部屋を提供している。

部屋は四角く狭く、無機質で、朝食はまずいけれどバイキング。テレビもエアコンもパソコンだって使えるのに、どこか刑務所のようなビジネスホテル。

それらの台頭によって「駅前旅館」は消えた。

駅前旅館の存在を知らなかった私が、実に嘆かわしいことだと今ここで言えるのは、本書『駅前旅館』を読んだから――、そこにあるストーリーを知ったからだ。

『駅前旅館』の魅力

舞台は上野にある駅前旅館だ。
主人公の生野次平は、母親の事情により幼い頃から駅前旅館に身を寄せ、女中に可愛がられていた。
その流れに身を任せるように、駅前旅館の番頭となった次平が語ることで本書は構成されている。

酔っぱらいのお話と前述したように、この次平の話があっちこっちに飛ぶのが面白く、ただここで「あらすじ」を書いたところで面白くない。
正直あらすじはB級ドラマレベルだと思う。

さて、本書の魅力は主に3つ!
  1. 駅前旅館について
  2. 番頭友達のこと
  3. 次平の語り

見たことないけど、知っている気がする駅前旅館

まず何より、駅前旅館という存在を知らなかった私にとって、駅前旅館という存在、そこに泊りにくるひと、働くひとのことを見ることができたのは楽しかった。

駅を降りると、どら声や美しい鈴とした声がほうぼうから聞こえ、歩いてくる客の手を引くように宿へ誘導する。今じゃ考えられないような光景が、まざまざと目に浮かぶ。町は活気に溢れ、客引きは我こそはと競うように声をあげる。駅から歩いてきた客は、それを1つの見世物のように楽しみながら、宿を通り抜けていくのだ。

知らないはずなのに、それは懐かしい風景のように思われる。

番頭たちの物語

呼び込みを行う番頭にも実力があり、客を見るだけで泊まりか、泊まりじゃないか、金持ちか、金なしかを見分けられるという。

普段、見える位置で競い合っている番頭たちだが、仲が良く、みんなで旅行に行ったりもする。
彼らは奇抜な服を着て、仕事で身につけた適当な喋りで、道中退屈せずに、話し続ける。
愉快な彼らは道中、どっかの企業の社長の体で話をしたりと相席した旅人に信じ込ませたり、奇想天外な行動を取る。

果には、この旅行の浮気女を新聞広告で募集するという、とんでもないこともするのだが……。
またそれがとんでもない話を引き起こしたりと、彼らに休みはない。

自分語りにならない酔っぱらいの軽妙洒脱な語りかけ

そんな彼らの物語を軽快に軽やかに語るのが、主人公である次平だ。
彼もまた番頭という客商売のせいか、話がうまい。
こんなハチャメチャな話を、うまくハチャメチャのままは読者に伝えることができるのだ。

話は過去、現代、そして色々なところに飛んでは戻る。読者はその話術に翻弄されるように色々な所を見て聞き、そうして読み終えたとき、駅前旅館に行ってみようかしらといった気持ちを抱くのである。

これはもしかすると駅前旅館に務める番頭、生野次平の「客引き本」かもしれない。
私はその口車に乗せられたのかもしれない。

本書を持って駅前旅館に行けば、
「やあやあ、お客さん、いらっしゃいまし」
と軽妙洒脱の次平がしてやったりといった顔で現れるのかもしれない。

そんな想像をし、にやにや笑いながらこの本を閉じた。

本書の最大の魅力は
やはり生野次平の語りにある。
もしその軽妙洒脱な話を聞きたいのであれば、ぜひ本を開いてほしい。

本を開き気がつくと目の前に、木造建造物が現れる。
そこに泊まれば、もう夜なんて寝かせてもらえない。
1日中、次平が目の前で話し続けるのだ。

駅前旅館改版 (新潮文庫) [ 井伏鱒二 ]
楽天ブックス
¥ 496(2019/05/19 23:00時点)
疎水
疎水

次の出張では「駅前旅館」に泊まってみたい。静岡にあるだろうか……。

ちなみに本作、映画化もしている。しかもシリーズ化まで。

「駅前旅館」予告編

コメント

タイトルとURLをコピーしました