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​幼なじみとの恋を集めた『夏が僕を抱く』豊島ミホ

本の感想
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【書評】豊島ミホが瑞々しく描く幼なじみとの恋模様『夏が僕を抱く』

豊島ミホが書く恋愛の瑞々しいこと。
夏が僕を抱く』は幼馴染との微妙な距離感を描き出し珠玉の名作たちだ。

幼馴染との恋模様と聞くと無​​意識にあだち充の『タッチ』を思い浮かべてしまうが、今後はもしかすると本作が頭に浮かんでくるかもしれない。

幼なじみとの恋模様を描く珠玉短編集

なんたって書き出しからたまらない。

毬男が不良になるんなら私だってなるしかない。

という突拍子のない出だしから始まるのは1篇目の「変身少女」。

いつも仲の良かった幼なじみ、毬男が中学になると変貌していた。
ふわふわと遊んでいた天然パーマをざっくり切って茶色く染め、制服は誰よりも スマートに着こなしている。

主人公の大内は、大好きな毬男が遠くに行ってしまったように感じ、自分も近づこうと不良になることを決意したのだが――。

タバコを吸い、授業をふけ、運動神経が良く、イケメンで、優しい不良の名前は、「毬男(まりお)」という。

そんなどうでもいい作者の遊び心ににやついてしまう。

 

あたしのこの思いは、錯覚なのだろうか。

ものごころつかない頃から何百回と遊んできた幼馴染へ揺れる思いを抱く「ラクダとモノレール」では、思春期らしくニュータウンへの閉塞感についてもうまく拾い上げている。

 

「わたし見たよ。ふたりがキスしてるとこ。今もおぼえているよ」

あさなぎ」では、幼なじみとお見合いをすることに、だが主人公は小さい頃、姉がその子とキスをしたことを鮮明に記憶している。
――その時の惚けた男の子の顔を、そのことがずっと頭から離れなくて。

 

あたしはちゃんと恋をしたい。世の中の男の人たちがいかなるものだかを知って――知った上で、岬のことが好きなら、好きって言いたい。

幼なじみが「ヒゲデブメガネ」の「遠回りもまだ途中」が個人的にはたまらない。

なんと言っても幼馴染、岬のキャラがいい。

「うるせえ、ヒゲデブメガネ」
「ヒゲとメガネは俺の選択なんだよ!」

主人公の有里は、切りすぎた前髪を気にしている。というのも彼女はクリスマスに、サークルの上級生である彼氏とデートする約束になっている。

だが、風の噂でその彼氏の悪口を耳にするように。

そんななか迎えることになったクリスマス――。

有里はずっと恐れていた。
岬がいることで安心してしまう自分に。
ヒゲデブメガネでかっこよくない岬が隣りにいることが当然になっている状況を打開しようと彼氏を作ったのだが……。

この作品の良さは、岬の良さそのものだ。
彼のキャラの良さがこの作品をより良いものにしている。

そして、幼なじみが「ヒゲデブメガネ」というのは、どうしょうもなく悲しいことに、どうしょうもなく現実的で、なんともいい。

幼なじみってだけで妙に意識してしまうが現実はこんなもので、こんなものにもたくさんのドラマが詰め込まれている。

他、表題作で唯一の男主人公の「夏が僕を抱く」2編を含む『夏が僕を抱く』は瑞々しく、繊細な心情をうまく拾い上げた珠玉の短編集だった。

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