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【書評】おかえりなさい、阿呆ヘタレ大学生『太陽の塔 1(漫画)』森見登美彦

本の感想 本の感想

「なんからしらの点で彼らは根本的に間違っている。なぜなら私が間違っているはずがないからだ」
森見登美彦のデビュー「太陽の塔」が満を持して漫画化!


「太陽の塔(漫画)」を選んだ理由

「太陽の塔」が漫画になったらしい、という情報をキャッチした。
本を出せば売れる森見登美彦のデビュー作である。
大学生の頃は貪るように森見登美彦の作品を読んだ。
ダメ大学生のその充実した生活に憧れていた。
森見登美彦に大学生活を捧げた身としては読まなければいかんと手に取った。

著者:「森見登美彦」情報

1979年奈良県生まれ。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。2003年『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を受賞。同作品は、本屋大賞2位にも選ばれる。

「太陽の塔(漫画)」抜粋

森見登美彦、伝説のデビュー作を衝撃コミカライズ!「私」は大学を休学中の五回生。自分を袖にした元恋人・水尾さん研究に勤しみながら、クリスマスファシズムが荒れ狂う京都の街を駆け巡る!妄想力しか持たない男が七転八倒する、すべての失恋経験者必読の青春バイブルを、俊才・かしのこおりが紡ぎだす!

おかえりなさい、阿呆でヘタレなダメ大学生。

堂々とした屁理屈は限界を超える

作品の抜粋からこうも面白い本は存在するのだろうか。

  • 元恋人・水尾さん研究
  • クリスマスファシズムが荒れ狂う京都の街
  • 妄想力しか持たない男が七転八倒
  • すべての失恋経験者必読の青春バイブル

抜粋という短い文字量の中にこれだけの面白さがすでに詰め込まれている。
読む前からもうすでに面白い。小説版を読んでいる私からすると、あの頃の感情がフラッシュバックするように笑い波が押し寄せてきた。

元恋人への未練を捨てられない主人公は、「水尾さん研究」という名目で、彼女のスケジュールを把握している。
どう考えても犯罪すれすれの行為のように思われるが、

私にとって彼女は
断じて恋の対象でなく
私の人生の中で固有の地位を占めた
たった一つの謎であり
これはこの謎を解明するための
研究であって
昨今よく話題になる「ストーカー犯罪」
……とは根本的に異なるものである

と釈明する。
いや、どう考えてもストーカーじゃないかと思うが、なんだかここまで自信満々で言われると不安になってくる。もしかして私が間違えているのか……? と。
そうやって自らを正当化した主人公は、水尾さんの家の前で彼女を観察しようとするが、
「警察を呼ぶぞ」
と不意に男から警告を受ける。「彼女が困っているんだ」と。
主人公はこのことをなぜか友人の飾磨に相談する。相談するまでもなく悪いのは主人公で間違いないのだが、

「うむ。これは断じて個人的な恨みとは関係ない。彼らを良識ある人間へと導くための推敲な行為だ」(主人公)
「無論だ。彼らは根本的に間違っている。なぜなら我々が間違っていることなどありえないからだ。そして間違いは常に正されねばならん」(飾磨)

ん? 間違えているのは君たちじゃないか……?

そこから物語は「四畳半神話体系」に書かれている悪戯合戦のに似た様相を呈してくる。
警告男からきた、主人公が借りている「桃色ビデオ」のタイトルが羅列された手紙。
主人公から警告男への「ゴキブリキューブ」のプレゼント。

ゴキブリキューブ
「それはないこと放置されていた段ボール箱の中や、流し台の下などによく見られ、豆腐のような形をしている。
表面をうごめくこげ茶色のテカテカと油じみた光を放っているものは、数億年の歴史を持つ強靭なる生命の煌めきである。」
―― 要はゴキブリの塊である。

さらに飾磨が調べ上げた警告男には衝撃の事実があった。
この物語には阿呆でヘタレなダメ大学生しか出てこないのか……。
はたしてこの物語はどこに向かっていくのか。

モリミーのルーツ「内田百閒」

もし森見登美彦の大ファンというのであれば、ぜひ内田百閒を読むべきである。
森見登美彦が彼のファンというコトだけあってその影響は随所に見られる。
この物語で書かれた主人公から警告男への手紙は、「山高帽子」(『冥途・旅順入城式』 収録)で青地から同僚の先生に送った手紙を想起する。
また叡山電車に怯える湯島も「山高帽子」に登場する野口の様である。
この漫画にはまだ収録されていないが、終盤で湯島は鉄道唱歌を歌いだすというシーンがある。これも百閒先生の作品に鉄道唱歌が良く出てくることに影響されているように思われてならない。

森見 : 哲学書に限らず、何でも読むんですけれど、読む時に目にフィルターがかかっていて、ヒントになるものがないか、自分の決断を誘ってくれるものがないか探していたんですよね。4回生の春に研究室をやめてそこから1年、そして5回生までやっているので、その2年間の空白の時期にいろいろ読んだんだと思います。筒井康隆を読んだり、内田百閒を延々と読んだり…。
――内田百閒は森見さんの文体に大きな影響を与えていると思われますが、読み始めたきっかけは何だったんですか。
森見 : いつのまにか。たぶん最初は岩波文庫の『冥途・旅順入城式』。本屋さんでふらっと見てふらっと買ったのかも。その空白の時期に、べたーっと浸りました。
――人生の答えを探して筒井康隆に内田百閒ですかあ…。
森見 : たぶんいろいろ読んだ中で、そこが残ったんでしょうね。ヒントを求めつつ、1番ヒントにならなさそうなところだけ残っちゃったような(笑)。
――文体もご自身にしっくりきたんでしょうね。
森見 : その時に文章の書き方で、こういう風に書けばいいんだと分かった気がしました。自分もこういう形にしたら文章が書けるんだろうか、と。スティーヴン・キングを読んでもそうは思わない。内田百閒はキングとは全然違う世界で、こういう書き方もあるのかという、真面目に考えるきっかけになりました。
参照:http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi65.html

大阪万博が決定したイマ。
是非この作品を読んで、太陽の塔(と水尾さん)の謎に迫って欲しい。

小説版ではだいたい112Pまで。

「森見登美彦」のおすすめ本

「太陽の塔」

やっぱり小説が1番。
どうどうと流れ溢れる屁理屈を小説の文字量で体感してみてください。

「四畳半神話大系」

阿呆ヘタレ大学生の、これも青春!
あるいはこれが本物の青春なのかもしれない。

「夜は短し歩けよ乙女」

なんだか目が回るほどにめまぐるしい。
エンディングに向けて誰もがぐるぐると走り回る。
これを読んでとりあえず京都旅行に発った。

「森見登美彦の京都ぐるぐる案内」

森見登美彦の小説に出てくる京都の名所を紹介した観光書。
本好きには堪らないのでは? いろんな作家の小説舞台地だけをまとめた観光書がでれば絶対に買うのに。

「きつねのはなし」

今までの森見登美彦作品とはがらっと変わった小説。
京都の路地裏。光が当たらない場所でひっそりとした怪奇譚。

この本を読んだひとにおすすめの本

屁理屈小説の先駆者。
森見登美彦のはるか上をゆく。

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